はじめに
「日本で一番雨が多いのは屋久島」「いや、尾鷲だ」――雨の多い場所の話になると、よく名前が挙がる2つです。屋久島には「ひと月に35日雨が降る」という言い回しもあります。
身近な“思い込み”を公的なデータで確かめる「本当なの?」シリーズの7回目です。前回は地震を調べました。3回目の記事では2026年が雨の多い年だったかを調べましたが、今回は日本のどこで一番雨が多いのかを比べます。
読み進める前に、予想してみてください。日本で一番雨が多い場所は、本当に屋久島でしょうか?
まずは1年の雨の量で比べ、ひと月の量・大雨の日・雨の日の数でも順位を付けます。データは気象庁の全国の観測所の平年値(1991〜2020年の平均)と、最近10年の値です。くわしくは記事の最後の「データと確かめ方」にまとめました。
結果:1年の雨の量は屋久島が1位。でも2位とはわずかな差
年降水量の平年値で見れば、「日本で一番雨が多いのは屋久島」は本当です。
- 1位は屋久島で、1年に約4,650mmです。島の海の近くにある観測所の値です
- ただし、2位のえびの高原(宮崎県)との差は約27mmしかありません。上位4地点は、ほぼ横並びです
- 尾鷲(三重県)は全国6位でした。気象台などの「気象官署」だけで比べると、屋久島に次ぐ2位です
予想と違った点:物差しを変えると、1位が変わる
では、ほかの物差しでも屋久島が1位でしょうか。名前の挙がる地点の全国の順位を並べると、こうなりました。
- ひと月の雨の量の1位は、えびの高原の6月です。平年値でひと月に1,000mmを超えるのは、全国でここだけでした
- 大雨の日(1日に50mm以上・100mm以上)の数は、天城山(静岡県)が1位でした
- 雨の日(1日に1.0mm以上)の数は、1位が荒沢(山形県)、2位が高根(新潟県)です。荒沢は2026年3月に観測を終えたので、今も観測している地点では高根が1位です
「雨の量」と「雨の日の数」では、1位がまったく別の地方になりました。
雨の日が多いのは、日本海側
- 雨の日の数の上位20地点は、すべて山形県・新潟県・秋田県の地点でした
- 屋久島は256位、尾鷲は729位です。尾鷲の雨の日は、全国の真ん中より少ない側でした。尾鷲は「降るときにたくさん降る」場所だといえます
- 雨の日が一番少ないのは岡山でした。1年の雨の量が少ない方の10地点は、すべて北海道です
「ひと月に35日雨」は?
ひと月は長くても31日なので、35日は言葉のあやです。では、屋久島ではどれくらいの日に雨が降っているのでしょうか。
屋久島の観測所で、ごくわずかな雨も含めて降水があった日は、最近10年の平均でひと月に約25日でした。1.0mm以上の日に限ると、ひと月に約14日です。
なお、屋久島町にある2つの観測所は、どちらも海の近くの低い場所にあります。島の山の中の雨の量は、このデータではわかりません。
もう一つの発見:最近10年では、天城山が1位
平年値は1991〜2020年の平均です。最近の年ではどうでしょうか。2016〜2025年の各年の年降水量で、全国1位になった地点を数えました。
- 各年の全国1位は、天城山と屋久島が3回ずつでした。1位は年によって入れ替わります
- 10年の平均では、天城山が1位で、屋久島は3位でした
- 2026年も、1〜9月の合計(速報値)では、比べた地点の中で天城山が一番多くなっています
2026年が全体として雨の多い年だったかは、3回目の記事で見ています。
あなたの県の県庁所在地は何位?
最後に、身近な47の都道府県庁所在地で比べてみます。
- 1年の雨の量の1位は高知で、一番少ないのは長野でした。東京は23位です
- 雨の日の数の1位は富山で、日本海側の街が上位に並びます。一番少ないのは岡山で、東京は33位でした
- 雨の量で1位の高知は、雨の日の数では19位。ここでも、物差しによって順位が大きく変わります
まとめ
- 「日本で一番雨が多いのは屋久島」は、年降水量の平年値で見れば本当。ただし、2位のえびの高原とはほとんど差がない
- 尾鷲は全国6位で、気象官署の中では2位
- 物差しを変えると1位が変わる。ひと月の量はえびの高原、大雨の日数は天城山、雨の日の数は荒沢(今も観測している地点では高根)
- 雨の日の数の上位20地点は、すべて山形県・新潟県・秋田県。屋久島は256位、尾鷲は729位
- 最近10年の平均では、天城山が1位で屋久島は3位。各年の1位は、年によって入れ替わる
- 都道府県庁所在地では、雨の量の1位は高知、雨の日の数の1位は富山
- 限界:比べたのは気象庁の観測所だけで、観測所の無い山の奥の雨は入っていない。平年値には、30年に満たない期間で計算された地点もある。最近の年の比較は、候補に絞った237地点の中でのもので、2026年の値は速報値。なぜこれらの地点で雨が多いのかは、このデータからはわからない
次回(2026年11月4日公開予定)は、日本は本当に年々暑くなっているのかを確かめます。
おまけ:1日に一番多く降ったのは?
気象庁の「歴代全国ランキング」で、日降水量の観測史上1位の値を比べました。1位は箱根(神奈川県)の922.5mm(2019年10月12日)です。2位は魚梁瀬(高知県)の851.5mm(2011年7月19日)でした。3位は、奈良県の大台ヶ原にあった日出岳の844mm(1982年8月1日)です。4位は尾鷲(三重県)の806.0mm(1968年9月26日)でした。
大台ヶ原も「雨の多い場所」として名前が挙がることがあります。ただ、日出岳の観測所は2009年11月20日に観測を終えています。1976〜2009年の34年の年降水量は、すべて資料不足値(「]」)で、ほかの地点と比べられませんでした。今も観測している近くの上北山(奈良県上北山村)は、年降水量の平年値が2909.3mmで、全国73位です。
データと確かめ方
物差しと使ったデータ
| 物差し | 基準 |
|---|---|
| 1年の雨の量 | 年降水量の平年値 |
| ひと月の雨の量 | 月降水量の平年値のうち、その地点で一番多い月の値 |
| 大雨の日 | 日降水量が 30mm以上・50mm以上・100mm以上の日数の平年値 |
| 雨の日 | 日降水量が 1.0mm以上の日数の平年値(気象庁の統計でよく使う区切り)。参考に10mm以上の日数も見る |
| 最近の年 | 2016〜2025年の各年の年降水量と、その10年の平均。2026年は1〜9月(速報値) |
- 「平年値」は、気象庁が公表している1991〜2020年の30年間の平均(2020年平年値)です。途中で観測を始めた地点などは、30年より短い期間の平均になっています
- 平年値は「平年値ダウンロード」の一括ファイル(アメダス、気象台などを含む)です。観測所ごとのファイル1298のうち、降水量の平年値がある1268地点を集計しました。年降水量の平年値があるのは1244地点(うち30年そろっているのは1043地点)、雨の日の数は1245地点です
- 最近の年は「過去の気象データ検索」の年ごとの値、2026年は月ごとの値(速報値)です。2026年10月29日に取得しました
- 比べるのは気象庁の観測所です。観測所の名前と、その場所の市町村の名前は違うことがあります(例:「天城山」は静岡県伊豆市、「えびの高原」は宮崎県えびの市)。市町村は、気象庁の観測所の一覧の所在地から書きました
- 「ひと月に35日雨が降る」は、観光庁の多言語解説文データベースでも「よく知られたことわざ」として紹介されています
1年の雨の量の細かい値
- 1位の屋久島(鹿児島県屋久島町)は4651.7mmです。屋久島町小瀬田の海の近く(標高37m)にある観測所です
- 2位のえびの高原(宮崎県えびの市、標高1150m)は4625.0mmで、差は26.7mmです。3位の天城山(静岡県伊豆市)は4552.6mm、4位の魚梁瀬(高知県馬路村)は4484.0mmでした
- 平年値が30年そろった1043地点だけで比べても、上位4地点の顔ぶれと順番は同じでした(5位は尾鷲)
- 尾鷲(三重県尾鷲市)は3969.6mmです。気象官署217地点だけで比べると、1位屋久島、2位尾鷲、3位八丈島(東京都八丈町、3306.6mm)です
ほかの物差しの細かい値
- ひと月の雨の量は、えびの高原の6月が1000.7mm、2位が屋久島の6月(860.3mm)です
- 日降水量100mm以上の日数は、天城山(静岡県伊豆市、標高1066m)が年11.3日で1位です。50mm以上も天城山が1位(27.9日)ですが、2位の屋久島は27.8日で、差は0.1日です
- 30mm以上の日数は、屋久島が1位(48.0日)でした
- 雨の日(1.0mm以上)の日数は、1位の荒沢(山形県鶴岡市)が219.4日、2位の高根(新潟県村上市)が215.6日です。荒沢は2026年3月23日に観測を終えました。10mm以上の日数も、高根が1位(112.3日)です
- 雨の日の数を気象官署だけで比べると、1位は高田(新潟県上越市、192.7日)、2位は新庄(山形県新庄市、192.0日)、3位は酒田(山形県酒田市、188.3日)です
- 屋久島の雨の日は164.1日で、いちばん多い6月でも18.5日です。尾鷲は121.0日(同じ値の地点あり)で、全国1245地点の中央値(126.8日)より少ない値です
- 雨の日が一番少ないのは岡山(88.3日)で、帯広(88.7日)、甲府(88.9日)が続きます。1年の雨の量が一番少ないのは、常呂(北海道北見市)の710.6mmでした
屋久島の雨の日
- 屋久島の観測所で降水が観測された日(0.0mm以上。0.5mmに届かない、ごくわずかな雨の日も含む)は、2016〜2025年の平均で年303.4日でした。少ない年で275日、多い年で336日です。ひと月にすると約25.3日です
- 1.0mm以上の日に限ると、年170.5日です
- 屋久島町にある観測所は、屋久島(小瀬田)と尾之間の2つです
最近10年の細かい値
- 各年の全国1位は、天城山が3回(2019・2021・2024年)、屋久島が3回(2017・2022・2023年)、えびの高原が2回(2016・2020年)、魚梁瀬が1回(2018年)、高根が1回(2025年)です
- 10年の平均は、1位が天城山(4784.1mm)、2位が魚梁瀬(4613.3mm)、3位が屋久島(4537.4mm)、5位が尾鷲(3895.2mm)でした
- 各年の1位で一番多かったのは、2018年の魚梁瀬の7194.5mmです。一番少なかったのは、2025年の高根(新潟県村上市)の3865.0mmでした
- 日数の10年の平均は、候補の外の地点が上に来ないとは言い切れないので、候補の中での順位です。日降水量100mm以上の日数は、候補の177地点の中で天城山(12.0日)が1位、魚梁瀬(11.5日)が2位でした。1.0mm以上の日数は、候補の185地点の中で荒沢(212.8日、2026年3月に観測終了)が1位、高根(206.4日)が2位で、屋久島は62位でした
- 2026年1〜9月の合計(速報値)は、天城山が4320.0mmで一番多く、尾鷲が4080.5mm、大島(東京都大島町)が3778.5mmと続きました
候補の選び方:年ごとの値は地点ごとのページにあるので、雨の多い地点など237地点(観測を終えた地点も含む)に絞って読みました。すべての地点(観測を終えた地点を含めて1303地点)を読むと、気象庁のサーバーに1300回近くアクセスすることになるためです。平年値のある地点(観測を終えた地点を含む)の中から、年降水量の上位150地点、1.0mm以上の日数の上位50地点、100mm以上の日数の上位50地点を選び、年降水量の平年値が無い地点(新しい地点など)を合わせました。
候補の外で年降水量の平年値が一番多いのは、西都(宮崎県西都市)の2547.3mmです。各年の1位になるには、平年値の1.52〜2.82倍が要ります。候補の地点で、各年の値が平年値の何倍だったかの最大は1.25〜1.60倍で、どの年も1位に届く倍率を下回っていました(10年の平均でも、要る倍率1.88に対して最大1.13倍)。そのため、年降水量で候補の外に1位を逃した地点は無いと考えました。1.0mm以上と100mm以上の日数では、同じ計算で候補の外の地点を否定できなかったため、候補の中での順位としました。
2026年の比べ方:2026年1〜9月の合計は、最近の10年の平均が多い地点と、今年の気象官署の合計が多い地点の、計33地点の月ごとの値(速報値)から出しました。気象官署は年ごとの値のページに10月28日までの合計があり、候補の気象官署14地点の中では尾鷲の4536.0mmが一番多い値でした。この値は年の途中のもので、気象庁のページでは資料不足値(「]」)の印が付いています。
県庁所在地の値
- 1年の雨の量は、1位高知(2666.4mm)、2位宮崎、3位鹿児島です。一番少ないのは長野(965.1mm)で、岡山、札幌が続きます。東京は1598.2mmでした
- 雨の日の数は、1位富山(178.3日)、2位金沢、3位秋田です。一番少ないのは岡山(88.3日)で、東京は102.5日でした
- 東京は千代田区(北の丸公園)の観測所の値です。さいたまと大津はアメダスの値、山口は特別地域気象観測所の値で(埼玉・滋賀・山口の気象台は県庁所在地の外にあるため)、ほかは各地の気象台の値です
平年値の扱い
- 気象庁は、資料の年数が8年以上で、欠けた年が期間の20%以下のときだけ平年値を作り、正常値と準正常値だけを使っています(資料不足値などは欠測として扱う)。年降水量の平年値は各年の年の値の平均で、月の平年値の合計とは限りません
- 30年に満たない期間で計算された201地点(鳥形山は11年分など)も、平年値として公表されているので比べる対象に入れました。年数は図に書きました。主な12地点の平年値のページでは、降水量の平年値に参考値の印はありませんでした
- 冬に観測を休む山の地点など24地点は、月の平年値の一部だけがあり、ひと月の比較にだけ入れました。観測所の番号が変わって同じ値のファイルが2つある3地点は、1つにまとめました
- 一括ファイルの値は、主な12地点で「過去の気象データ検索」の平年値のページと照らし合わせ、月と年の降水量がすべて一致しました
- 年ごとの値の資料不足値(「]」)は、2016〜2025年の85件を順位から除きました(準正常値「)」はありませんでした)
出典
- 気象庁「平年値ダウンロード」(2020年平年値、第5版。アメダスの月・年別平年値と地点の一覧の一括ファイル。統計期間は1991〜2020年)
- 気象庁「アメダス観測所一覧」(2026年3月24日版。観測所の所在地と種類。2020年より後に観測を終えた荒沢は2026年2月5日版)
- 気象庁「過去の気象データ検索」(主な12地点の平年値のページ、観測を終えた荒沢を含む237地点の年ごとの値(2016〜2026年)、33地点の2026年の月ごとの値)
- 気象庁「歴代全国ランキング」(日降水量の観測史上1位の値)
- 観光庁「地域観光資源の多言語解説文データベース」(屋久島の気候。「ひと月に35日雨が降る」の言い回し)
いずれも2026年10月29日に取得。順位・平均・中央値・倍率は、取得したデータから計算しました。2026年の値は速報値で、1〜9月の合計と、10月28日までの合計です。
この連載の記事は、「本当なの?」の一覧でまとめて読めます。
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